私の顔色は曇っていたらしい。湯浅はそう言い切ると、小さな会釈を私に投げた。同時に、二人の視線が鉢合った。湯浅の視線は力強く、私の視線はグラスへと誘われた。温まり、炭酸と泡が消滅しかかったビールを飲み干すよう勧めている。
 湯浅の誘いに、私は若干の躊躇を感じた。口をつけてしまえば、依頼を承諾したと勘違いしかねないからだ。湯浅は私の顔を再び覗き、もう一度小さく頷いた。その瞬間、私の右手は何の脈絡もないまま動いていた。その眼には魔力でも宿っているのであろうか、誘われるまま一気にグラスを空にしてしまった。
「刀を預けた古い友人とやらは、今は何処にいらっしゃいますか?安請け合いはしたくないので、その方も交えて話しができればと思うのですが」
「その者の名は嶋田という。歴史に通じており、骨董品の売買で生活を支えている。鶴川に住んでいるので、君の仕事場とも近いはずだ、末裔を探すヒントになるかどうかは解らないが、彼は君の仕事がスムーズに運ぶよう配慮してくれる」

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