「嶋田さんは、この件に関してある程度の情報量を抱えているのですね」
「そうだ。当時の大谷家の所領、福井県の敦賀に二人で行ったこともある」
「手掛かりになりそうな資料は見つかりましたか」
「残念だが、これと言ってないのだよ。出陣から封土没収までの過程で財産は使い切っていたようだし、一族は散々になっている。他の藩主に嫁いだ大谷家の女子には有名な話しもあるが、大谷の姓は名乗っていない。肝心なのは、大阪の陣にまで参陣していたらしい男子の記録だ、事の真意は不明だがね」
「つまり女子ではなく、男子の血筋を追わなければならないと」
「そう、本家を捜し出してもらいたいのだよ。親兄弟との絆は当然としても、嫁いでしまえば嫁ぎ先の家の子だ、その一族の血を育むことになる」
「関ヶ原合戦や大阪の陣以降に大谷家の世代が続いていたとして、養子を貰っていたらどうします」
「本家であればかまわない」
「敗者ですから、残党狩りを避ける為に名字を変えたり、帰農してしまったとも考えられますよね」
「うむ、可能性は高い。これは一つの例えなのだが、湯浅家は安土桃山時代に小さな大名に使えていた。戦に破れた末に武士の家柄を捨ててしまったらしい、君が言ったように、帰農したケースだと想像したまえ。名字を失いはしたが、世代は脈々と引き継がれた。その後、江戸時代の名字御免という政策があった際に、本来の名前を復活させている」
「すばらしい話しだとは思いますが、状況としては稀なのではないでしょうか」

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