「うむ。所持している骨董品の中に、大谷吉継が使用していたであろう遺品がある。刀には興味を持っ ているかね」
「まったくありません」
「刀は数打物と注文打の二種類に別けられる。数打物は数を打つと書くので、読んだとおり大量生産を意味し、注 文打はその反対で刀鍛治の名前が彫られていることが多く、古来から希少価値が高い。その注文打の一振を所持し ているのだが、鍛治名の他に佩刀していた人物が彫らせたと思われる文字がある。その中に、大谷吉継の名前が刻 まれていた」
「その文字は誰でも読めるのでしょうか」
「もちろん。大谷吉継を知らなければ“おおやよしつぐ”と読むかもしれないがね」
「刀の鑑定は専門外です、私にどうしろと」
「刻まれた文字の真意と鑑定はすでに古い友人に頼んだ、刀はその者に預けてある。君には、大谷家の末裔を探し てもらいたい」
 言葉の意味を理解したくなかった。探偵の仕事を提供してくれたのは頼もしい限りだが、債権取立よりも質が悪 い。あまりにも無謀な依頼だからだ。四百年も前の人間から二十一世紀である現代までのルーツを辿れ、と湯浅は 言っている。どう考えても無理がある。探しだしてどうするつもりなのか、刀を譲渡しようとでも考えているのであろうか。だとすれば、それは善意でもなんでもなくただの道楽だ。その刀が本物であれば、漠然とでしかないが骨董の骨の字も知らない私でも、価値ぐらいは想像できる。湯浅の理由はさて置き、この依頼は不可能だと判断するのが正しい。
「……難しいかと」
「結論を焦ってはいけない」


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