最後は命令口調になっていた。先方の名前と待ち合わせ場所を一方的に伝えた斎藤は、別れの言葉も告げずに電話を切ってしまった。同級生で、十七年来の付合いである斎藤と私の立場は対等のはずである。しかし、この場所を借りていられるのも、生活に差し支えない収入を確保できるのも、全て斎藤の力だった。だから、一時たりとも感謝の気持ちを忘れたりはしない。それとは別に、斎藤から仕事の電話をもらう度に気持ちが萎えてしまうのも事実だ。暴力団の手先に落ちた私自信への呪い、加えて後悔と反省がいつも付き纏う。飲み会の約束ならいざ知らず、仕事内容を承諾し行動に移すまでには、かなりの努力が必要になる。やはり天性の怠者なのか、これっぽっちのやる気さえ起こらないのが普通だ。報酬面はともかく、どうせ今回も期待のできる内容であるはずがないのは、ありありと予感できる。受話器を握る為に軌道修正をさせた腕を再び冷蔵庫へと伸ばし、缶ビールを取り出した。リングプルを弾くのには、欠片程度のためらいさえ湧かなかった。

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