「急すぎるな」
「先方の指示だ、お前の意見は聞こえねえ。そっちの都合に合わせてやる程、俺達は暇じゃねえ、どうせ時間を持て余して、暇ぶっこいてんだろうが」
「俺の時間をどう使おうと、俺の勝手じゃないのか」
「お前の時間なんざ問題じゃねえ、俺が世話になってる人から紹介を頼まれた、それだけだ。ただなあ、次ぎの仕事は来月までねえぞ、繋ぎで押さえるのが得策ってもんじゃねえのか」
「仕事?冗談もほどほどにしてくれないか、倒産整理や債権取立が探偵の仕事だと思うのか」
「依頼を受けて報酬を受け取る、それが探偵だろうが。お前にとってはどうなのかは知らねえがな、お互いそれが飯の種になってる。忘れちゃならねえ大事なことだ」
「そうさせたのは、何処の誰だ」
「意志が弱いからそうなったんだ。まあいい、時間がねえからこの続きは酒でも飲みながらゆっくり聴くよ」
「断ったらどうする」
「ちょっと待て」
斎藤は短く言葉を吐き捨てると、受話器の送話口を掌で押さえたようだ。側に若い衆でもいるのであろう、そいつを怒鳴り散らす声が少し遠くで聞こえた。
「お前よう、このむさ苦しい昼の最中から、のんびりと酒をかっくらってたろう」
受話器から、不意に斎藤の声が響いた。私は、オフィス内をぐるりと見渡してから、斎藤の問い詰めに答えた。
「この部屋に監視カメラでも設置したようだな。けど、二十分ばかり遅かったみたいだ」
「ふざけろ。一度しか言わねえからメモを取ってくれ、そして必ず行け」
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