習慣とは恐ろしいもので、壊れたままほったらかしにしたエアコンの御陰で、連日の猛暑を無理矢理なまでに満喫できるようになっていた。その結果、暑さを紛らわす為に冷えた缶ビールをしょっちゅう飲むようになった。ひどい時は午前中から飲み始め、昼過ぎにはデスクの上が空缶だらけになっている。収入を得る手段は、行うべき本来の内容から遠く逸脱していた。いや、させてしまった。でたらめな拘束時間にでたらめな拘束日数、報酬も一定していない。金銭的には幸運が訪れたりもするが、二十四時間の僅かで貴重な時間を、無駄に過ごす日々が自然と増える。怠けた生活のサイクルを築き上げるには、たいして時間を必要としなかった。怠者の性が、毎日のテンションを空回りさせている。
 電話が鳴った。二本目の缶ビールを口にしようと、デスク横に設置してあるドリンク用冷蔵庫に手を伸ばした瞬間だった。
「平か。俺だ、斎藤だ」
 ら行が巻き舌になる、相変わらずの横柄な口調だ。仕事用のこの電話は、機能している時間よりも埃を被ったまま静止している時間の方が長い。電話帳に掲載していないのだから、鳴らないのが当たり前だ。仮に鳴ったとしても、相手に所在確認の言葉を言わせ、私からは絶対に呼び掛けはしない。私を名指しで呼ぶ相手は、そう多くない。
「声を聴けば解る」
「客を一人紹介する。今から言う場所で会ってくれ」
「時間は」
「一時間ちょいある」
斎藤からの電話は、いつも至急の用件が多い。それも大の字がつくやつだ。

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