肌色らしきタイルが全体に張り付けてあるありきたりな七階建ての雑居ビルも、排気ガスと埃にまみれて変色が進んでいた。屋上に隙間なく設置されている室外機の数々は、すっかり鳩や鴉の糞で汚れてしまっている。私の陣取るオフィスは、そんなビルの最上階に位置する。ほんの二年程前までは、南側の窓から街全体が見渡せた。しかし、今は目の前の超高速マンションが、お気に入りの景色をすっかり邪魔してしまっている。隣には、昭和初期に建築されたと思われるピンク映画専門の劇場。建築当時は流行の映画が連日上映去れ、付属のサウナは盛況だったそうだ。カラーテレビの普及と同時に衰退が始まり、真空管を利用したテレビが市場から消え去った頃には、ピンク映画専門館に成り下がっていた。閉館に追い込まれたのは八十年代後半、その記憶は定かではない。老築化によって黒ずんだ外壁には、申し訳程度に補強された無数の亀裂。閉館してから随分の年月が経過しているはずなのに、取り壊される様子はない。それでも、屋上と正面入口に茂る蔓草、朽ち果てた「映画」「サウナ」の文字、一階側面に並ぶ小さな間口のスナックからは、発展を始めた時代の街の匂いが伺えた。

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