「義理堅いんだね、君は信用しても損のない人物のようだ。しかしアルコールは酔う為に口にするもの、仕事で最高の結果さえ残せれば、いつ飲もうが誰も咎めたりはしない」
「けど、昼からというのはどうなんでしょう。夕方の四時頃から飲み出す酒は誰しもが最高だと思うはずですが、昼酒に対する世間の認知度はかなり低いのではないでしょうか」
「うむ。君が世間体を重んじるとは予想外だったよ、そのような性格だとも、思えはしなかった」
「意外な一面を持ち合わせているのが人間だと思います。ただし、世間体についての雑談は、サービストークでしかありませんが」
「面白い男だ」
 それだけ言って、湯浅は言葉を区切った。黙ったままじっと私の瞳孔を覗いている。まるで、額縁に飾られた絵画のように動かない。澱み据わった光りを放つ湯浅の視線が、私の眉間にチリチリと焼けつくような違和感を感じさせる。
 沈黙が長引かないよう注意しながら、私は話しを軌道に乗せようとした。債権取立の話しも勘弁願いたいが、これ以上の雑談を重ねる必要もない。もし依頼が私にとって正規のものだったとしても、承諾できない内容だった場合は更に断りずらくなる。多くの雑談は、自分の回りに情という垣根を作ってしまうからだ。
「今回、どうして私を選んだのか、その理由を聞かせていただけませんか」
「ほう。どちらが会話の主導権を握るか、はっきりさせようとしているのかね」


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